著者:恩田陸の紹介と代表作品
1964年10月25日、青森県青森市生まれ。本名:熊谷 奈苗(くまがい ななえ)
大学卒業後、生命保険会社のOLとして働いたが、2年後に過重労働で入院。復帰後も忙しく、本が読めないのが主な不満で、入社後4年で退職した。退職後に書き終えた『六番目の小夜子』が第3回日本ファンタジーノベル大賞最終候補作となり、翌1992年の刊行をもって作家デビューを果たす。
2004年『夜のピクニック』吉川英治文学新人賞、本屋大賞
2006年『ユージニア』日本推理作家協会賞
2007年『中庭の出来事』山本周五郎賞
2017年『蜜蜂と遠雷』直木賞、本屋大賞
ネバーランド
発行日:2000年7月5日
発行元:集英社
- 2001年7月6日~9月14日、毎週金曜日21:00 – 21:54の時間帯で、TBS系にてドラマ化(全11話)
舞台は、伝統ある男子校の寮「松籟館」。冬休みを迎え多くが帰省していく中、事情を抱えた4人の少年が居残りを決めた。ひとけのない古い寮で、美国、寛司、光浩、統の4人だけの自由で孤独な休暇がはじまる。そしてイブの番の「告白」ゲームをきっかけに起きる事件。日を追うごとに深まる「謎」。やがて、それぞれが隠していた「秘密」が明らかになってゆく。驚きと感動に満ちた7日間を描く青春グラフィティ。

高校男子4人の寮生活をベースのサスペンス小説。
古びた寮、松籟館での生活は酒盛りに始まり、酒盛りに終わるというほど、みんなお酒好き(笑) しかも、うまい肴や酒の飲み方知ってるし(笑)
そんな楽しい寮生活に、サスペンスホラーという調味料がみごとにマッチし、物語をグッと引き締めています。また、季節が「冬休み中」ってのがさらによし。
ある時から始まった「告白ゲーム」。次々と少年たちの暗い過去があきらかになり、その重さに押しつぶされそうになる。
しかしながら、過去との鎖を自ら断ち切り、ひたむきに前を向き立ち上がっていく。
清々しい気持ちでスッキリ読了できる1冊です。
評価:7/10点
ドミノ
発行日:2004年1月23日
発行元:角川文庫
1億円の契約書を待つ締め切り直前のオフィス、下剤を盛られた子役、別れを画策する青年実業家、待ち合わせ場所に行き着けない老人、警察のOBたち、それに…。真夏の東京駅、28人の登場人物はそれぞれに、何かが起きるのを待っていた。迫りくるタイムリミット、もつれあう人々、見知らぬ者同士がすれ違うその一瞬、運命のドミノが倒れてゆく!抱腹絶倒、スピード感溢れるパニックコメディの大傑作!!

6つの独立した物語が、場所を別々にし、同じ時系列で進行します。
最終的には同じ場所へ「ドミノ倒し」のように集まるという物語です。
主な物語として
- 関東生命八重洲支社の契約期限は守れるか?→分岐(優子のおつかい・えり子の爆走・和美とえり子の爆走)
- 麻理花と玲菜のオーディションの結果は?→分岐(2人とも爆弾アーティストにつかまる・爆弾のリモートスイッチを拾う)
- 爆弾アーティストは、試作品を回収できるのか?
- 佳代子と正博の破局現場での騒動。佳代子を探し出せるか?
- 忠司と春奈の理事長をかけた闘いの行方は?
- 映画監督と、クミコはダリオというペットを探し出せるか?
さて、実際に読み始めますが、タイトルの「ドミノ」と、冒頭に登場人物27名+1匹の紹介があるので、「このメンバーがドミノ倒しのようにバタバタ集結するのだろう」と読めてしまいます。
が、読めるがためにこの27名+1匹がどのような関連性をもって集合するのか、強い興味を持つようになります。
このあたり、読者心理のコントロールがうまいと思います。
そして終盤ですが、予想通りメンバーが同じ場所に集結します。
人質をとって立て籠もる爆弾アーティストたち。そして事件の行方は?
こういったお話しです。
ジャンルは「ドタバタコメディ」になるのでしょうか。
序盤に高まった期待感が高すぎて、中盤以降しぼんでしまった印象をうけました。
評価:5/10点
蜜蜂と遠雷
発行日:2016年9月23日
発行元:幻冬舎
- 第156回直木賞受賞
- 第14回本屋大賞
- 映画化118分:2019年10月4日(金)公開(配給:東宝)
3年毎に開催される芳ヶ江国際ピアノコンクール。「ここを制した者は世界最高峰のS国際ピアノコンクールで優勝する」というジンクスがあり近年、覇者である新たな才能の出現は音楽界の事件となっていた。養蜂家の父とともに各地を転々とし自宅にピアノを持たない少年・風間塵16歳。かつて天才少女として国内外のジュニアコンクールを制覇しCDデビューもしながら13歳の時の母の突然の死去以来、長らくピアノが弾けなかった栄伝亜夜20歳。音大出身だが今は楽器店勤務のサラリーマンで妻子もおりコンクール年齢制限ギリギリの高島明石28歳。完璧な演奏技術と音楽性で優勝候補と目される名門ジュリアード音楽院のマサル・C・レヴィ・アナトール19歳。彼らをはじめとした幾多の天才たちが繰り広げる競争という名の自らとの闘い。第1次から3次予選そして本選を勝ち抜き優勝するのは誰なのか?

まずは、直木賞と本屋大賞のダブル受賞について、
・『2017年本屋大賞』(4月11日発表)全国書店がいちばん売りたい本を選出
・『第156回 直木賞』(1月19日発表)
2004年から始まった本屋大賞で、14年目にして史上初。すごい!
ちなみにこの小説、構想から12年、取材に11年、執筆にはなんと7年もの期間を費やしたとのこと。(想像の域を超えていて、もう分かりません)
さて、それでは僭越ながら感想を。
芳ヶ江国際ピアノコンクールではダークホース的存在の「風間塵」、養蜂家である父と各地を転々とする。彼の師であるユウジ・フォン=ホフマンはピアノ演奏かの大御所で、なぜ無名の「風間塵」の師をつとめるのか、この奇異な師弟関係についてコンテスタントや審査員がさまざまな思惑をめぐらせる。このあたりが面白い。
この小説の特筆すべきは、コンクールのリアリティにある。”取材に11年”と説明したが、なるほど、あたかもコンクールで4~5列目に座って演奏を聴き、栄伝亜夜やマサルの会話を近くで聞いているよう錯覚する。
この本を開けば、芳ヶ江国際ピアノコンクールという最高の舞台で、一流コンテスタントの演奏を聴くことができる。
曖昧な表現になりますが、「この本でしか体験できないもの」があります。
”本を超えた本”です。読めばわかります。
未読の方はぜひ。
評価:10/10点
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