著者:村上春樹の紹介と代表作品
1949年1月12日、京都府京都市生まれ。
日本国外でも人気が高く、2006年、フランツ・カフカ賞をアジア圏で初めて受賞し、以後日本の作家の中でノーベル文学賞の最有力候補と見られている。
代表作は、『ノルウェイの森』『羊をめぐる冒険』『世界の終りとハードボイルド・ワンダーランド』『海辺のカフカ』『1Q84』
ノルウェイの森
発行日:1987年9月4日
発行元:講談社
- 映画化:2010年公開、トラン・アン・ユン監督(配給:)
(上)暗く重たい雨雲をくぐり抜け、飛行機がハンブルク空港に着陸すると、天井のスピーカーから小さな音でビートルズの『ノルウェイの森』が流れ出した。僕は1969年、もうすぐ20歳になろうとする秋のできごとを思い出し、激しく混乱し、動揺していた。限りない喪失と再生を描き新境地を拓いた長編小説。(下)あらゆる物事を深刻に考えすぎないようにすること、あらゆる物事と自分の間にしかるべき距離を置くこと—。あたらしい僕の大学生活はこうして始まった。自殺した親友キズキ、その恋人の直子、同じ学部の緑。等身大の人物を登場させ、心の震えや感動、そして哀しみを淡々とせつないまでに描いた作品。

【ネタバレがあります!】
療養中の直子に会うため、初めて阿美寮に行き、そこで交わした二つの約束。
その一つは、直子の死後18年経った今でも忠実に守られている。
それは、「私のことを覚えていてほしい。私が存在し、あなたのとなりにいたことをずっと覚えていてほしい」というもの。
非常に切ない。
恐らく直子は、この段階で自分の精神疾患が回復する見込みがないこと。さらに、自らの死を意識したのだろうと思う。
ではなぜ、ワタナベに「愛」をちらつかせ、緊密な関係を築こうとしたのか。
それは、自分の生きた証を残すためだったのではないか。
死の直前にも、「レイコに自分の衣服を使ってくれ」といったメモがあり、これも同じような意味に感じる。
直子の死後、ワタナベは寝袋片手に旅に出る。
とにかく西へ西へ向かい、気が付くと山陰の海岸まで来ていて、その砂浜で寝泊まりしていた。そして、気が付くと「奇妙な場所」に来ていた。
そこでは、直子が生きていて、ワタナベと語り合い、そして抱き合うこともできた。直子は、死を含んだままそこで生きていた。そして、直子はこう言った。「大丈夫よ、ワタナベ君、それはただの死よ。気にしないで」と。
山陰の海岸の「奇妙な場所」で、ワタナベは「死者とともに生きた」
そしてさらに西へ西へと歩いた。
その後しばらくして、親切な若い漁師に出会い、死の世界から引き上げられたが、もしこの漁師に出会っていなければ、ワタナベも直子の側へ行っていたのでしょう。
直子は、キズキとお姉さんの「死の側」で生き、運命から逃れられず命を絶つ。
ワタナベは、直子の死の中で生きたが、緑やレイコ、さらに若い漁師に助けられ「生の側」で生きることができた。
この小説は、ちまたでいう恋愛小説ではない。
キズキの死、直子と直子のお姉さんの死、ハツミの死、いずれも明確な動機も遺書もなく、この謎が明かされるわけでもなく、いかようにも考えることができる。
読了後に感じる虚無感は、迷いの森から手招きされているようで気味が悪い。
評価:7/10点
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